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小学生でもわかる「1票の格差問題」

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日本は民主主義国家であり、「国家としてのあり方」を最終的に決めるのは国民です。これは「国民主権」と呼ばれる大切な原則です。しかし、国民の意見によって国を治めるにしても、国民みんなが国政に直接参加して物事を決めるのは不可能です。そこで、選挙によって国民の代表者を選び、国民の意見を国政に反映させる制度が取られています。これが「議会制民主主義」です。

国会は国民を代表する機関であり、選挙で選ばれた国会議員はそれぞれが国民の代表者です。そして、議員が国会で議案などに賛成・反対の投票をする場合、各自1票ずつしか投票できません。逆に言えば、国会議員は国会の中ではまったく公平です。1年生議員もベテラン議員も、必ず1人1票なのです。

ところが、国会議員を選ぶ選挙については、「1票の格差」という大きな問題が生じています。これは、住む場所により、それぞれの国民が選挙で投票する「1票の価値」について不平等があるという問題です。

2012年12月に実施された衆議院議員総選挙において、最も少なかった「高知3区」の有権者数は20万5461人。逆に最も多かった「千葉4区」の有権者数は49万7350人でした。つまり、「高知3区」で当選した議員は約21万人の有権者の代表であり、「千葉4区」で当選した議員は約50万人の有権者の代表だということになります。

このように、それぞれの議員を支える有権者数が2.4倍も違うのに、各議員が国会の中で行使できる投票の価値はまったく同じです。これは「千葉4区」の有権者2.4人分の意見と、「高知3区」の有権者1人分の意見が、同じ価値であることを意味します。不公平と思われても仕方ありません。

実は、選挙の具体的なルールを決めるのは国会です。ところが、「議員の定数をどうするのか「選挙区をどのように分けるか」などについて、最も影響を受けるのは国会議員です。各議員や各政党は考え方が違いますから、色々な意見が飛び交って、なかなか収拾がつかないことは容易に想像できると思います。

そんなわけで「1票の格差」は、国会が自分たちで解決しなければいけないのに、未解決のまま「放置」されやすい問題なのです。そこで、選挙民の立場から「このような不公平な選挙は無効だ」という裁判が、たびたび起きるようになりました。

たとえば、2009年8月に実施された衆議院議員総選挙では「1票の格差」が最大2.3倍でした。この選挙について、最高裁判所は2011年3月の判決で、「違憲状態(憲法に違反している状態)」にあることを指摘しました。「1票の格差」が2.3倍もあることは、憲法が定める「法の下(もと)の平等」の要請に反している、というのがその理由です。ただし、最高裁判所は「違憲状態」であるものの国会がそれを手直しするために十分な時間があったとはいえないとして「違憲」の判断を避け、「選挙無効」の主張も退けています。

ところが国会は、この最高裁判決が出された後も、その「違憲状態」を1年9か月にわたって放置しました。2012年12月の衆議院議員総選挙は、最高裁が「違憲状態」と指摘したときと同じ状態のまま実施されたものです。そこで、選挙後すぐに全国の高等裁判所に衆議院選挙の無効を訴える裁判が合計17件提出され、これまでに「違憲・無効」2件、「違憲」13件、「違憲状態」2件の判決が出ています。

今後、裁判の舞台は最高裁判所に移り、早ければ今年の夏ごろには判決が出るのではないかと言われています。「1票の格差」は、大切な「国民主権」にかかわる重大問題ですので、今後ともしっかり注目しておきたいところです。

職人かたぎの法律のプロ

藤本尚道さん(「藤本尚道法律事務所」)

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