体罰に頼らず子どもの能力を伸ばすスポーツ指導法

 | スポーツトレーナー
川口 博正

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「体罰」は勝つため・強くするために必要か?

昨今のスポーツ界では、体罰問題が大きな波紋を呼んでいます。大阪市の桜宮高校バスケットボール部のキャプテンが顧問の体罰により自殺したことから始まり、女子柔道日本代表チーム内での体罰など、様々な競技に体罰問題があることが浮き彫りになりました。おそらく、スポーツの世界はその特性上、際立っているだけであり、「体罰」は学校・会社・家庭など日本社会全体にある一種の「体質」のようにも思います。体罰というのは簡単に定義づけできるものではありません。また、定義づけることが必要かどうかも議論すべき点かと思いますが、私が体罰問題の報道において気になったことの一つに「勝利至上主義が体罰を生んでいる」という論調です。

桜宮高校バスケットボール部顧問の「強いチームにするためには体罰は必要」という発言があったり、女子柔道の日本代表監督が「焦りが出てきてしまい、急いで強化しないといけないという思いに駆られていました。その部分から、叩くという行為で選手に伝えてしまいました」と会見で発言していたように、「勝たせたい」「強くしたい」という思いから手を上げたという事実が確かにあるようです。競技選手は勝つために厳しい練習を行っているので、「強くしてあげたい」という指導者の気持ちは理解できます。しかし、勝利至上主義で何でもありでは確かに困ります。

「体罰」に頼らず、子どもの能力を伸ばす方法

では、体罰がないと勝たせることも強くすることもできないのでしょうか。また、体罰に頼らずに子どもの能力を伸ばす方法はないのでしょうか。

手を上げてしまう要因はたくさんありますが、指導者が現役時代の経験をもとに指導を行うことが大きな原因ではないかと思います。現在、多くの指導者が学生時代に手を上げられた経験があり、それが悪い思い出になっているどころか、逆に「良い競技成績を残すことができたのも、体罰があったからこそ」と信じている傾向にあります。私自身は生活指導で手を上げられた経験はあっても、幸いなことにスポーツの中で手を上げられたことはありません。よって、体罰によって良い競技結果に導いてもらったという経験もありません。「結果を残すために体罰は必要ない」ということを多くの指導者に理解してもらうことができれば、日本スポーツ界も少しずつ変わっていくのではないでしょうか。

私も指導者として理論や指導法など日々模索している立場ですが、、今までの経験から言えることは、選手自身のモチベーションを上げることが結果への一番の近道だと考えています。私が指導している陸上競技では「結果=数字」なので、早い段階で選手の努力を数字で出してあげることができれば、やる気スイッチは勝手に入ります。

例えば、腕振りの動きが悪い選手に対して、腕振りを修正したらどの程度タイムが縮まるかを具体的に明示したとします。きっと具体的なタイムを聞いた選手は腕振りくらいなら直せると思い努力してくれるでしょう。そして腕振りが直ってきた時に努力を認めてあげて、実際に言われた通り記録が縮まっていればその子のやる気スイッチは勝手に入り更なる努力をしてくれます。

最初の努力をさせるまでは個々の性格を見極めた声掛けが必要になってくるので、洞察力も必要かと思います。しかし、指導の導入段階で正しい努力には結果がついてくるということを証明してあげることで、ほとんどの選手がモチベーションを上げて辛い練習にも積極的に参加するようになります。例えば、選手たちに先の全く見えない闇のような道を「全速力で走れ」と言ったらどうでしょうか? きっと本気で走る選手などほとんどいないはずです。しかし、先に光が見える道であれば、そこへ向かって選手たちも一生懸命走ってくれるでしょう。

進むべき道をしっかりと言葉で理解させるため、指導者の努力こそ必要に

今までの指導は、指導者だけに光が見えているような道を、全く光の見えていない選手に体罰を加えることで無理やり走らせていたようなものではないでしょうか。指導者から具体的な説明も無いまま体罰だけで無理やりに走らされたとしても、結果的に走った先に光が見えてきたらどうでしょうか? きっとそれが成功体験となり一つの方法論として確立されてしまうのではないでしょうか。おそらく体罰を受けて成功した選手はそこで勘違いをしてしまうのだと思います。

情報化社会に育った最近の子どもたちは、頭ごなしに「あれをやれ」「これをやれ」と言ってもすぐに薄っぺらな知識は見透かし、本気で練習に取り組んではくれないでしょう。指導者が常日頃から勉強して子どもたちにもわかる言葉で説明して理解させ、自発的な行動を導き出すことがこれからの指導には必要になってきます。陸上競技のように数字で結果を出してあげられるスポーツは、他のスポーツに比べて確かに指導しやすいのかもしれませんが、基本的な考えはどのようなスポーツにも共通するものだと思います。

数字に表すことができないスポーツであっても、進むべき方向を子どもたちにわかりやすく説明し、自発的な努力を引き出し、良い変化が表れたときには認めてあげること。そのようなコミュニケーションをとることができれば、どのようなスポーツにおいても体罰に頼ることなく子どもたちの能力を引き出すことができるのではないでしょうか。

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