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違憲状態の国会に選挙制度を改革できるか?

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「違憲状態」でも拡大した「1票の最大格差」

違憲状態の国会に選挙制度を改革できるか?

各地の高裁で「違憲判決」が相次ぎ、「違憲・無効」の判断すら出た「1票の格差問題」で、最高裁は「違憲判決」には踏みこみませんでした。2012年12月の解散総選挙における「1票の最大格差」は、高知3区と千葉4区との間の2.43倍で、2009年の衆議院議員選挙の2.30倍に比べ、むしろ拡大しています。すでに2011年の最高裁判決で「違憲状態」と指摘されたにもかかわらず、国会は是正のための措置を怠ってきました。

ところが、今回の最高裁判決は、「2012年衆議院議員選挙が2009年総選挙と同じ区割りで行われ、一票の最大格差も拡大し、憲法が求める投票価値の平等に反する状態だった」旨を指摘しながら、衆議院解散直前の「0増5減」や今年6月の区割り改定法の成立により、最大格差が2倍未満に収まるようになった点を評価しています。そして、解散がなければ今年8月まで衆院議員の任期があったことも考慮の上、一定の前進ととらえ「合理的期間内の是正」と判断しています。

選挙制度の改革は「泥棒に縄をなわせる」ようなもの

もう死語かもしれませんが、「泥縄」という言葉があります。「泥棒を捕らえてから縄をなう」の省略形であり、事件が起きてしまってから慌てて対策を練ることを意味します。選挙制度の改革も常に後手後手であり、その場しのぎの小手先の改革ばかりですから、まさに「泥縄式」と評価せざるを得ません。

さらに、選挙制度の改革は「泥棒に縄をなわせる」ようなものです。「自分を縛る縄をなえ」と命令しても、泥棒はいやいや作業をするでしょう。国会の「不作為」はそれと似ています。現時点では「0増5減」で最大格差が2倍未満に収まっていると言っても、そのようなものは長続きしないでしょう。2011年の最高裁判決で最大の問題点と指摘された「一人別枠方式」は形の上では廃止されましたが、実質的には定数配分の基準としてまだ生き残ったままです。いずれまた「泥縄式の改革」が必要になるに決まっています。

国会全体をリニューアルして、正統性を担保することが先決

さて、現在、投票価値の平等の面では、衆議院のみならず参議院も「違憲状態」と最高裁から指弾されています。衆参両議院つまりは国会全体が「正統性」において疑義があるわけで、そのような国会が選挙制度の改革を進めること自体、疑問なしとは言えません。

そうすると、選挙制度の改革に取り組むまえに、まず国会全体をリニューアルして、その「正統性」を担保する必要があります。まるで「卵が先か鶏が先か」の議論みたいですが、ここでは思い切って、全国を一つの選挙区とする比例代表制を実施する「ガラガラポン」的発想も求められます。この方法なら、少なくとも区割り自体が存在しないため「1票の格差」の問題は起きません。

「1票の格差」が完全解消されてこそ真の選挙制度改革ができる

そうやって「1票の格差」が完全解消された国会において、初めて真の選挙制度改革を進めることができるのです。ただ、選挙制度の問題点は「1票の格差」だけではないので、「全国一選挙区比例代表制」を永続的に実施することは必ずしも現実的ではないでしょう。

選挙制度の改革は、政党の浮沈や存亡、議員自身の利害得失に直結しますから、ともすれば党利党略・私利私欲に走りがちです。しかし、今こそ政治が「正統性」と国民の信頼を取り戻すべき正念場なのです。国会議員全員が強い危機意識を持って、真剣に選挙制度改革に取り組まなければ、この国の政治に明日はありません。

職人かたぎの法律のプロ

藤本尚道さん(「藤本尚道法律事務所」)

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