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「子ども・子育て新システム」考えられる懸念点は?

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保育所の利用をパートタイマーにも広げる方針を決定

「子ども・子育て新システム」考えられる懸念点は?

政府の「子ども・子育て会議」は、今年1月15日、保育所の利用をパートタイマーにも広げる方針を決めました。具体的には「月48~64時間」の範囲で、市町村が定めた時間以上、就労していれば、就労時間についての要件は満たすことになります。これにより、パートに出るお母さんが増え、女性の社会進出が促進されます。また、個々の家計も上向くメリットがあると言われています。働くことは「生き方」そのものにも大きく関わる問題ですから、働きたい人が働ける環境を社会全体で整えていくこと自体は、とても大切なことだと思います。

子ども・子育て新システムにおいて人的・物的整備は十分でない

しかし、上記利用要件の緩和もその一環をなす、いわゆる「子ども・子育て新システム」においては、増えた利用者の受け皿としてミニ保育所・認定子ども園等が想定されていますが、かかる施設の人的・物的整備は未だ十分とはいえません。また、女性の労働力が労働市場に出てくれば労働力の供給が増えるため、「賃金水準は下がるのではないか」「果たして本当に個々の家計が上向くのか」という疑問も呈されています。このことは、今後、議論される保育サービスの利用料の設定とも関係します。

さらに、そもそも「子ども・子育て新システム」の「子どもの最善の利益を考慮し、幼児期の学校教育・保育の更なる充実・向上を図るとともに、全ての子どもが尊重され、その育ちを等しく確実に保障」するという目的に照らせば、保護者の就労時間で機械的に選別すること自体ナンセンスなのではないか、との批判も成り立ちます。

子の人権と大人の労働問題が絡む。市場原理に委ねてはいけない

その他にも、この「子ども・子育て新システム」では、保護者が施設と直接契約することから、市町村の保育実施義務(児童福祉法第24条)が撤廃されるであろうこと、これに関連して園運営の責任を事業者が負う指定制度が導入され、保育の現場が金儲けの道具にされかねないこと、その結果として児童の安全確保が困難になってしまうことなど、他の規制緩和政策と同様の問題点が鋭く指摘されています。

保育所は、基本的には、お母さんが働きに出る間、子どもを預ける場所。よって、「子ども・子育て新システム」は子どもの人権と大人の労働問題がコネクトする、非常にセンシティブな問題です。特に子どもの保育については、子どもの一生を左右しかねませんので、市場原理に委ねてよい範疇の話ではありません。知らない間に一部の人間の意向で全てが決してしまったということのないよう、みんなで関心を持って声を上げていくことが必要なのではないでしょうか。

個人と中小企業を支援する法律のプロ

佐々木伸さん(平野・佐々木法律事務所)

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