特定銘柄の株価予想、風説の流布に?
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刑事罰以外に課徴金の制裁も。「風説の流布」とは?
金融商品取引法158条は、「何人も、有価証券の募集、売出しもしくは売買その他の取引若しくはデリバティブ取引等のため、または有価証券等(中略)の相場の変動を図る目的をもって、風説を流布し、偽計を用い、または暴行もしくは脅迫をしてはならない」と定めています。
「風説」とは「噂(うわさ)」を意味し、「流布」とは「不特定または多数人に伝播させること」で、直接に不特定または多数人に告知した場合のみならず、インターネットが普及した今日においては、不特定または多数人に伝播することを予想して掲示板などに記載することも、当然「流布」に該当することになります。
同条に違反した場合は、「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する」ものとされていますが(同法197条1項5号)、さらに「財産上の利益を得る目的」で風説を流布し、相場を変動させるなどして取引を行った場合には、より重い「10年以下の懲役および3000万円以下の罰金」に処せられることになります(同条2項)。なお、このような刑事罰以外に課徴金の制裁も設けられています(同法173条)。
一般投資家の相場観に影響を与えるかどうか
では、特定銘柄の株価予想をインターネットに書き込んだ場合、それだけで「風説の流布」に該当するのでしょうか。刑法上の信用毀損罪ないし業務妨害罪(同法233条)は、「虚偽の風説を流布し…」と定めているのに対し、金融商品取引法上の行為は「虚偽の」と言葉がついていないため、違法行為か否かの境界がはっきりしないところです。しかし、制度の趣旨からすると「風説の流布」に該当するか否かは、行為の態様と流布された情報を勘案し、一般投資家の相場観に影響を与える可能性があるか否かといった観点から判断する必要があります。
その意味では、一般投資家の相場観に影響を与える可能性のない単純な相場予測に過ぎないのであれば「風説の流布」には該当しないでしょう。逆に、明白に虚偽とはいえなくても、合理的な根拠のない情報を流布して相場観に影響を与える場合には「風説の流布」に該当するといって良いと思われます。例えば、A社がB社と合併する予定がないのに、合理的根拠もないままに合併する予定であることが既定であるかのように報じる行為は、後に実際に合併したとしても「風説の流布」に該当するものとして、その責任を問われる可能性があるでしょう。
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