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NHK経営委員と「表現の自由」

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経営委員会は、大きな権限を持つNHKの最高意思決定機関

NHK経営委員と表現の自由

NHKの経営委員を務める作家の百田尚樹氏、哲学者の長谷川三千子氏(埼玉大学名誉教授)について、その「政治的言動」などから経営委員としての「資質」を疑問視する声があがっています。経営委員会は、「放送法」によって設置が義務づけられているNHKの最高意思決定機関です。その権限や組織、委員の任免、運営、議決の方法、議事録の公表義務などは、すべて「放送法」に規定されています。委員会は、経営に関する基本方針や内部統制に関する体制の整備のほか、毎事業年度の予算および事業計画、番組編集の基本計画などを決定する権限を持ち、役員の職務執行をも監督します。

とりわけ、NHK会長の任命および罷免の権限を経営委員会が掌握していることは重要なポイントです。また、副会長や理事については会長に任命権・罷免権がありますが、任免にあたっては経営委員会の同意を得る必要があります。籾井勝人会長が理事全員から日付空欄の「辞任届」を提出させていたとの報道がありましたが、会長の一存だけで勝手に理事を辞めさせることはできません。

このように、経営委員会はNHKに対し、とても大きな権限を持っています。籾井会長が経営委員会の浜田委員長より「置かれた立場について理解が不十分」などと二度目の「お叱り」を受けた事実からも、その「力関係」が明白であることがわかります。

両議院の同意を得て内閣総理大臣により任命。求められる資質は?

それでは、12人の経営委員は誰が任命するのでしょうか。実は、衆・参両議院の同意を得て内閣総理大臣により任命されるのです。百田氏、長谷川氏ら4人の新たな経営委員は安倍総理によって任命されました。委員の選任にあたっては、教育・文化・科学・産業その他の各分野および全国各地方が公平に代表されるよう考慮されたうえ、経営委員の「資質」としては「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者」であることが要求されます。

なお、国家公務員や政党の役員は経営委員になれません。委員が特定の政党に属することは「思想信条の自由」から許されますが、委員のうち5人以上が同一政党に属することは禁止されています。そもそも公共放送が公正で不偏不党であること、政治的に中立・公平であることから導かれる合理的な制約です。

「表現の自由」については多少の制約を受けてもやむを得ない

さて、個々の経営委員の「政治的言動」についてはどう考えるべきでしょう。「経営委員としての職務以外の場において、自らの思想信条に基づいて行動することは妨げられない」との見解には違和感があります。NHKに対し強い権限を行使し得る経営委員会の委員が、特定の政党に対する積極的な支持活動や、特定の政治家あるいは政治団体構成員の応援・礼賛などをすることは、決して望ましいこととは思えません。公正で不偏不党かつ政治的に中立・公平であるべき公共放送に「バイアス」がかかる危惧を感じてしまうからです。

確かに、委員個人の「思想信条の自由」は守られるべきです。しかし、「表現の自由」については多少の制約を受けてもやむを得ないでしょう。経営委員に「政治的な言動」を禁じる明文の法律や規則はなくとも、「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者」(放送法31条)という経営委員の「資質」の中に含まれると考えられるからです。

「政治的な言動」を自由に行いたければ、委員を辞めれば良いのです。NHK経営委員のポストを受諾し、その「肩書」をつけている限りは、「職業的倫理」の一環として「政治的言動を慎むこと」が要求されても仕方がないということです。

職人かたぎの法律のプロ

藤本尚道さん(「藤本尚道法律事務所」)

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