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高齢者を襲う「3つのD」

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医療・病院

認知症と間違われやすい「高齢者のうつ病」

高齢者を襲う「3つのD」

近年、認知症に関する情報があふれ、「物忘れ」の症状が出ると早めに精神科(心療内科)を受診するケースが増えつつあります。その中で、認知症と間違われやすい「高齢者のうつ病」があるということも、だんだん認識されてきました。これは、精神医学では「偽痴呆(ぎちほう)」と呼ばれており、高齢者のうつにおいて、記憶障害が目立つ認知症的な状態のことです。うつでは、元気がなく、意欲や物事への関心がなくなり、頭の回転も悪くなりますが(これらは認知症でも見られる症状です)、若い年齢では記憶が悪くなることはありません。高齢者は、老化のために記憶力が落ちているので、そこにうつが生じると一気に低下しまうことがあり、周囲の目にも本人にも、「ぼけた」状態に映ってしまうのです。これが「偽痴呆」の状態で、特に高齢(65歳以上)になって、初めてうつが発症した場合に(「老年期うつ病」という)、認知症との鑑別が専門医でも難しいことがあるため、このような呼称が生まれましたが、特殊なうつ病を指すものではありません。

また、認知症の初期に、憂鬱な気分や悲観傾向など、うつ的な症状が現れることがあり、本格的なうつ病が認知症に合併してくることも少なくありません。

アメリカのプライマリーケアの標語「3つのD」

アメリカのプライマリーケアでは、高齢者の「3つのD」という標語があり、常識になっています。「3つのD」とは、Dementia(認知症)、Delirium(せん妄)、Depression(うつ)を表し、高齢者に起きやすい症状として注意を呼びかけています。

「3つのD」は、いずれも老化による脳の機能低下が根本にあって生じてくるので、単独で発生することもあれば、互いにオーバーラップすることもあります(3つの合併もあり得る)。せん妄とは、突然に始まる症状で、しばしば夜間に起こり、夢遊病のように行動したり、幻覚を見たり、大声を出したりするもので認知症に合併することもあります。

高齢者のうつ病は、薬が効きやすく、治療しやすい。早期受診を

うつ病は、働き盛りの重大な病気として注目されていて、その初発年齢は、20代・50代と、おおむね青壮年期にピークを迎えます。一方、老年期は、老化という体の衰えに加えて、退職、子どもの独立、配偶者の死去など、大切な「より所」を失う体験(喪失体験)を強いられる厳しい時期でもあります。老化による適応力の低下によって、そのような大きい変化に対応し難くなっています。記憶力が低下し、思考力も柔軟さが減ってきます。また「幸せ物質」とよばれるセロトニンも、年齢とともに低下します。すなわち、初発、再発を含めて老年期は、うつが起こりやすい時期なのです。ところが、年を取って「元気がなくなる」「意欲がなくなる」「食欲がなくなる」のは「むしろ当たり前だ」と取られがちなために、高齢者のうつでは、周囲も本人もそれと認識せずに長期間放置しているケースが多く認められます。

高齢者のうつの特徴として、記憶障害もその一つですが、「腰痛」「動悸」「ふらふらする」といった身体症状のみが自覚されるため、内科疾患として扱われることも珍しくありません。うつ病の特徴であるところの「早期覚醒(朝、異常に早く目が醒める)」も、老人の睡眠の特徴と混同されがちなので注意が必要です。高齢者のうつ病は、薬が効きやすく、治療しやすいものです。反対に悪化すれば、「3つのD」の関係で、脳が更に弱って認知症も発症しやすくなります。「物忘れ」が目立ち始めたら、認知症かうつを疑って、まず専門医に受診することをオススメします。

池上司

精神科医・ユング派分析家として心理療法を行う専門家

精神科医

池上司さん(池上メンタルクリニック)

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