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リベンジポルノ取締が言論規制に波及?

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「リベンジポルノ問題に関する特命委員会」を政務調査会に設置

リベンジポルノ取締が言論規制に波及?

別れた交際相手などのわいせつ画像をインターネット上に流出させる「リベンジポルノ」。先月、自民党は「リベンジポルノ問題に関する特命委員会」を政務調査会に設置しました。報道によると、投稿画像の拡散防止や加害者の罰則強化を柱とする新法を整備する方針が、同委員会の会合で確認されたとのことです。

この「リベンジポルノ」の問題では、「撮らせた側も悪い」という自己責任論を背景に、「そもそも今以上の法規制は必要ないのではないか」という意見も根強いところです。

「リベンジポルノ」の法規制により監視される表現が広がる恐れも

恋愛をしているときの心理は、必ずしも合理的に説明がつくものではなく、また、現実問題として男女間に力の差、立場の違いがあることも多いので、「撮らせた側が悪い」と一概に言うことはできないと思います。他方、こういう問題のときには必ず対立利益として挙げられる「表現の自由」(憲法第21条)についても、「リベンジポルノ」画像の投稿行為そのものには、被害者のプライバシー権(憲法第13条)を上回る法的利益があるとは考えられず、「リベンジポルノ」画像の投稿行為そのものの規制については、大きな問題はないように思われます。このように、「被害者が悪い」と一概に言えるわけではなく、また「表現の自由」からも大きな問題がないのであれば、「リベンジポルノ」に対する規制は無制限に歓迎されるようにも思えます。

しかし、本当にそう言えるでしょうか。「リベンジポルノ」を規制しようとすると、そのほか多くのネット情報に触れる必然性が高まるので、国家によるネット監視強化の端緒となってしまうことも考えられます。また、規制法の文言の設定次第では、国家機関が合法的に触れることのできる情報が、際限なく広がる可能性もあります。
要するに、「リベンジポルノの『ついでに』監視される表現、規制を受ける表現がなし崩し的に出てくるのではないか」ということです。ゆくゆくは「自分の政治信条を公にすることができない」というような世の中になってしまうかもしれません。

「規制緩和」「自己責任」を好む政府が「規制」に向かうのは?

民主主義というのは、51対49になったときでも「51の言い分が通る」という、ある意味とても横暴な制度です。それでも、それがかろうじて正当化されるのは、最終的に多数決を採るにいたる段階で、十分に議論が尽くされていることが前提にあるからです。

しかし、国家による監視が強化され、表現行為が萎縮すると、自由闊達な議論ができなくなります。すなわち、民主主義の前提を欠くことになるので、簡単に規制を認めることはできないのです。

被害者が気の毒なのは間違いありません。言うまでもなく、抑止を含めた救済は必要です。でも、「リベンジポルノ」の取締が言論規制の一里塚とならないか?「規制緩和」「自己責任」が大好きな政府が、なぜこの問題にだけ「規制」の方向にスピーディーに動いているのか?そんなことを考えると、そう簡単には結論の出る問題ではないように思います。少なくとも、犯罪被害者を踏み台にして、別の目的を達成しようという動きがあれば、それには抗わなければならないのでしょう。

個人と中小企業を支援する法律のプロ

佐々木伸さん(平野・佐々木法律事務所)

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