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「官製ワーキングプア」常態化の背景

同じ非正規職員を30年以上も任用し続けた自治体も

「官製ワーキングプア」常態化の背景

今、「非正規公務員」と呼ばれる臨時・非常勤職員数が増加し、自治体職員の3人に1人の割合となりました。そして、本来であれば、数か月もしくは1年以内等の短期任用が原則であるのに、任用期限が来るたびに再任用を繰り返し、長期任用が常態化。九州7県の59市町村で、本来は半年や1年の短期任用が原則の臨時・非常勤職員を10年以上雇い続けていることがわかったそうです。

九州で非正規を20年以上雇い続けているのは、熊本県菊陽町のほか熊本市、佐賀県唐津市、大分県国東市、熊本県南小国町、熊本県荒尾市などの11市町とのこと。中には、同じ非正規職員を30年以上も任用し続けた自治体もあるということです。

年収200万円以下が大半。労働契約法も適用されず

このような非正規公務員の増加の背景には、自治体の財政難等から人件費の削減という目的があります。そのため、非正規公務員の給与は年収200万円以下が大半で、有給休暇や退職金など、その他の待遇も正規公務員よりも非常に劣悪で、「官製ワーキングプア」と呼ばれる実態があります。

非正規公務員の再任用を繰り返し長期雇用をする理由としては、高齢化などで膨らむ社会福祉関係等の行政サービスの量と質を落とさないために、ベテランの非正規公務員を任用し続ける必要があるからだと言われています。任用期間を定められている非正規公務員の実態は、民間で言うところの有期労働契約と同様ですが、「公務員」であるところから「任用」であって「労働契約」ではないと解されています。そのため、正規公務員には、労働契約法やパート労働法の適用がありません。雇い止めを無効とする法理(労働契約法19条)や有期雇用を理由とする不合理な差別を禁じる規定(同法20条)も適用されません。また、民間であれば一定の条件を満たせば健康保険・厚生年金保険に加入させなければならないこととされているのに、非正規公務員は共済に加入することもできない場合がほとんどです。すなわち、非正規公務員には、民間並みの待遇さえ認められていないのです。

裁判例においても、非正規公務員には、雇い止めの法理が適用されず、公務員としての地位を確認した例はほとんどなく、人格権侵害や再任用の期待権侵害を理由とする損害賠償請求の支払いを命じる判決が出されている程度です(東京地裁判決平成18年6月8日等)。

処遇の改善を図らなければ、公共サービスの劣悪化に

非正規公務員側で不当な雇い止めをしないように求めるための行動に出ている実例もあります。オーソドックスな労使交渉の他に、自分たちの働き方を客観的に評価する「勤務評定」制度を設計し、能力を実証して働き続けられる環境(再任用の更新回数制限撤廃等)を求めるというものです。

職場の3分の1を占める非正規公務員の雇用の安定と処遇の改善を図っていかなければ、公共サービスの劣悪化を招き、その弊害は地域住民自身に跳ね返ってくるとの指摘もなされています。早急に改善が必要と言えるでしょう。

中村伸子

家族関係のトラブルを解決する法律のプロ

弁護士

中村伸子さん(あおぞら法律事務所)

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