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三菱UFJ、社外取締役増員へ。狙いは?

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内部昇格の取締役の場合、人事権を握るトップに意見を言いづらい

三菱UFJ、社外取締役増員へ。狙いは?

三菱UFJフィナンシャル・グループが社外取締役を2人増員し、計4人とする方針を固めたと報道されています。社外取締役は、業務執行には従事せず、取締役会を通じて業務執行の監視を行う存在で、近年、大手企業を中心に社外取締役を増員する傾向がみられますが、その狙いと課題について解説します。

以前、日本の企業の取締役は、社内で実績を積んだ社員が取締役に抜擢される内部昇格が一般的でした。取締役就任は、出世レースを争う社員にとっては目指すべきポジションであり、そのために力のある上司と敵対することは極力避けるというメンタリティが形成されることになります。また、内部昇格の取締役の場合、会社からの役員報酬がそれまでの社員としての給与の代わりになるので、取締役を解任されて役員報酬を失うような事態は避けたいという自制が働き、取締役に対する人事権を握っているトップには逆らえなくなるという現実的な問題もあります。

しかし、そのような事業執行の体制では、取締役会はトップに対して意見を言えないイエスマンの集まりになってしまうため、トップの経営責任を問われそうな企業の不祥事が見つかったときにも、公表するよりも隠ぺいする方向での心理が働き、コーポレート・ガバナンス(企業統治)が適切に行われていないと外部から批判を浴びる事態が後を絶たないことになります。また、業務執行に対する監査・監督を行うために監査役制度もありますが、監査役も経営トップが指名することが多く、その監査・監督機能が十分に果たせない問題は内部昇格の取締役の場合と異なりません。

アメリカでは上場企業の取締役の半数以上が社外取締役

社外取締役については、会社法にも「株式会社の取締役であって、現在及び過去において、当該株式会社またはその子会社の代表取締役・業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人ではないものをいう」(会社法2条15号)と定義されているように、多くの企業が取締役の一部を社外取締役にするという流れは確実に広がっています。

取締役になれば、その取締役としての職務に不適切なところがあれば、株主代表訴訟などによって損害賠償責任を負うこともあります。社外取締役であったとしても、その職責に変わるところはありませんので、責任感をもって職務に当たることが期待されます。特に、社外取締役の場合は、社内のしがらみや個人的な利害に縛られずに企業の業務執行を監督できるので、コーポレート・ガバナンスの観点からは不可欠な存在と考えられており、アメリカでは上場企業の取締役の半数以上が社外取締役です。

社外取締役の増員は企業価値の向上につながる

日本でも企業不祥事が続く中、経営の透明性、株主重視の経営の必要性が高まり、社外取締役の導入が広がっていますが、現状では法律で義務付けられているわけではありません。会社法によって新設された委員会設置会社では、取締役会の中に社外取締役が過半数を占める委員会を設置して経営を監督する一方、業務執行には執行役が行うというスタイルで経営の合理化と適正化を目指していますが、その導入もまだ少数にとどまっています。暴力団員への不正融資問題が明るみに出た「みずほフィナンシャル・グループ」が複数の社外取締役を置く委員会設置会社への移行を決めましたが、このような企業不祥事が発覚しなければ、委員会設置会社への移行はなかなか進まないのが現実のようです。

そのような全体的な傾向の中で社外取締役を積極的に増員するということは、外部にコーポレート・ガバナンスの透明性を高めているとの印象を与え、海外の投資家からも好感をもたれる取り組みなので、企業価値の向上につながるという狙いがあるといえます。

ただ、導入するメリットの大きい社外取締役ではありますが、社外取締役としての人材不足や、代表取締役と個人的な関係が強い、あるいは取引上の利害関係が強い人が社外取締役に就任した場合には、社外取締役制度本来の役割を果たせるかという点に疑問もあります。その意味では、単純に社外取締役の数が増えたことを評価するのではなく、きちんと職責を果たせる人が社外取締役に就任しているかどうかを見極めることが、その企業価値を適切に評価することになるのだと思います。

弁護士と中小企業診断士の視点で経営者と向き合うプロ

舛田雅彦さん(札幌総合法律事務所)

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