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顧客データ、転職先に持ち込むと違法?

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「窃盗罪」は「有体物」に限られる

顧客データ、転職先に持ち込むと違法?

企業にとって顧客データは「財産」ともいえる重要なものですが、退職した従業員が顧客データを持ち出し、転職先で利用したらどうなるのでしょうか。顧客データの持ち出し自体が犯罪となるかどうか(刑事上の問題)ということと、データを持ち出した元従業員に損害賠償を請求できるか(民事上の問題)にわけて考えてみます。

刑事上の問題としては、まず、会社のデータを持ち出したのだから「窃盗罪」(刑法235条)ではないか、ということが考えられます。しかし、窃盗罪の対象は「有体物」に限られており、顧客データを印刷した名簿を持ち出したという場合や、会社のUSBメモリに入れて持ち出したという場合でない限り、窃盗罪は成立しません。データを私物のUSBメモリにコピーして持ち出したり、私物のスマホで受け取った名刺や顧客名簿の写真を取って持ち出したりした場合には窃盗罪にはならないのです。また、「背任罪」(刑法247条)という犯罪もありますが、これも単なる持ち出しを処罰することはできません。

不正競争防止法の要件は非常に厳格

顧客データが「営業秘密」に当たる場合、不正競争防止法21条により刑事罰の対象となりますが、その要件は非常に厳格です。具体的には、「①秘密として管理されていること(秘密管理性)」「②生産方法や販売方法など事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること(有用性)」「③公然と知られていないこと(非公知性)」の3点が必要となります。

特に①の秘密管理性については、単に「部外秘」としているだけでは不十分とする裁判例が多数あり、きわめて厳重な管理が必要と解釈されています。例えば、顧客情報をコンピューターで管理している場合、データにアクセスするためのパスワードが設定され、定期的に変更されていることや、プリントアウトした情報を使用後すぐに破棄することなどの社内規定があることなどが挙げられます。

紙媒体やUSBメモリ等で管理されている場合には、保管場所がきちんと施錠され、鍵の管理が厳重になされていることなどが必要と考えられます。なお、データの管理が万全でも、前提となる紙媒体の管理がルーズ(名刺や名簿を誰でも持ち出せる場所においているなど)な場合、秘密管理性が否定されることもありますので、注意が必要です。経済産業省でも「営業秘密管理指針」を公開していますので、参考にしてください。

秘密保持契約を結んでいれば、損害賠償請求は認められやすい

それでは、民事上の責任はどうでしょうか。顧客データが前述した「営業秘密」に当たる場合、不正競争防止法により利用の差し止めや損害賠償請求ができます。しかし、「営業秘密」に当たるかどうかの要件が厳しいことはすでに述べたとおりです。ただし、従業員との間に秘密保持契約を結んでいる場合には、不正競争防止法による保護が認められない場合でも、雇用契約上の義務違反としての損害賠償請求は認められやすくなります。なお、顧客データの持ち出しにより会社に損害が生じたのであれば、不法行為(民法709条)によりその賠償を求める余地もあります。

つまり、退職した従業員が会社の顧客データを持ち出した場合、そのデータが「営業秘密」に当たるかどうか、及び従業員の採用や退職の際にきちんと「秘密保持契約」を結んでいるかどうかで、法的に取り得る対応が大きく変わってくることになります。情報の重要性が日に日に大きくなる現在では、企業側にも徹底した情報管理が求められているといえるでしょう。

半田望

市民の法律問題を一緒に解決する法律のプロ

弁護士

半田望さん(半田法律事務所)

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