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静岡で全国初「かかりつけ弁護士」の狙い

静岡市で始まった「自治会ホームローヤー制度」とは

静岡で全国初「かかりつけ弁護士」の狙い

この春、静岡市で「自治会ホームローヤー制度」という新しい取り組みが始まりました。静岡県弁護士会と地元自治会連合会との協定により実現したものです。

静岡市内の全ての自治会・町内会(以下、自治会)を27のブロックに分けた上で、ブロックごとに3名前後の担当弁護士が配置されます。住民は、悩み事やトラブルを抱えた時は、平日の午前9時から午後6時まで、加入する自治会の担当弁護士に直接電話をかけ、20分程度の法律相談を無料で受けることができます。「同一相談は3回まで」など一定の制約はあるもの、それ以外には基本的に利用回数の制限はありません。

一般的な弁護士の法律相談が30分5000円程度であることや、通常は相談のために弁護士事務所などを直接訪問する必要があることを考えると、この制度の実現により、市民の弁護士相談への距離は、ぐっと近くなったと言えるのではないでしょうか。

高齢者を狙った事件も課題。セーフティネットの必要性が背景に

様々な問題を抱えていながら、それを相談できる専門機関や専門家を知らない人は少なくありません。特に、弁護士はまだまだ「ハードルが高い」というイメージが強いのか、相談をためらっているうちに、被害に遭ってしまったり、問題が複雑化してしまうことを、われわれ弁護士は経験上、知っています。昨今では、高齢者を狙った悪質な訪問販売や振り込め詐欺被害の防止も大きな課題です。こうした問題に対処する上で、いわば「かかりつけ医」のように、市民が気軽に相談できる弁護士を身近に作ることが、とても大きな力になるのではないかという考えが制度の根底にあります。そして、こうした制度理念は、高齢化社会の中での自治会が持つ問題意識とも重なるものでした。

また、この制度には、100名以上の弁護士が登録弁護士として参加しています。20~40代の若手・中堅の弁護士が中心です。一昔前なら、弁護士数の不足により、そもそも物理的に制度実現は困難であったかもしれません。若手・中堅弁護士が持つ「積極的に市民のニーズを聞き取り、多種多様なフィールドに活動の場を広げたい」という思いにも制度はうまくマッチしました。

制度が地域に根付くかどうかは弁護士の努力次第

今回のような思い切った制度の試行には、弁護士でも意見が分かれるところがあると思います。しかし、前述の悪質な訪問販売や振り込め詐欺の事案など、弁護士が警察などとも連携しつつ、20分の電話相談で救えるケースは実際にかなりあります。個人的には、こうしたセーフティネットの一端を担えることは弁護士冥利に尽きるもので、素直に制度の趣旨に賛同します。

ただし、今後、この制度が一過性のものに終わらず広く普及し、実際に弁護士が市民にとって身近で信頼できる存在として認知されていくことになるかどうかは、弁護士一人一人の意識と努力にかかってくると思います。同時に、制度を利用した市民の声に真摯に耳を傾けつつ、弁護士の取り組み方を検証したり、ホームローヤー制度がある町とない町での様々な統計に有意な差があるかどうかなどを可能な限り継続的に検証していくことも大切でしょう。

交通事故と債務問題のプロ

永野海さん(中央法律事務所)

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