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国民投票法改正案の残された課題

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憲法改正には国民投票で過半数の賛成を得ることが必要

国民投票法改正案の残された課題

先頃、日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法)の改正案が衆議院に提出されました。そもそも国民投票法の存在自体、国民に十分周知されているとは言えない中での改正案の議論。少しおさらいが必要かもしれません。

憲法は、憲法改正のために、最終的に国民投票で過半数の賛成を得ることが必要と規定しています。これは、国の最高法規である憲法の改正という極めて重要な手続については、国会議員ではなく、国民自らが意思決定を行うことにしたものです。

しかし、実際の国民投票の実施方法については、憲法にも法律にも規定されてきませんでした。これは、日本では、これまで憲法改正の議論自体がタブー視されてきたこととも無縁ではないでしょう。そうした中で、はじめて国民投票の方法などを具体的に定めた法律が冒頭の国民投票法です。第1次安倍政権時代に可決成立し、平成22年5月から施行されています。

改正案では、投票年齢は遅くとも4年後から自動的に18歳以上に

現在の国民投票法では、投票権者を18歳以上の国民とすることが定められましたが、他の法律との均衡に配慮し、公職選挙法なども18歳以上に改正することが前提とされました。しかし、今回の改正案ではさらに踏み込み、投票年齢について、施行当初は20歳以上とするものの、遅くとも4年後からは自動的に18歳以上になる内容になっています。

また、公務員の政治活動について、国民投票に関する賛成、反対の勧誘や、憲法改正に関する意見表明を許している点も注目です。

課題は山積。各党の思惑に惑わさない冷静な議論を

今回の改正案は、与野党7党による共同提出ですので、今国会中の成立が確実な情勢です。もともと憲法が、憲法改正に国民投票による過半数の賛成を必要とした趣旨は、前述のとおり、国民の意思を直接反映させるためです。そうであれば、投票できる年齢を下げ、より多くの国民に自らの意思を表明できる機会を与えることの意義はあるでしょう。

しかし、「今後、現在20歳が基準となっている国政選挙の選挙権や民法の成人年齢との関係をどうするのか」「この国民投票法の射程を憲法改正手続以外にも広げていくのか」といった問題や、「国民投票で有効に成立するための最低投票率について定められていない」などの不透明な要素も数多くあります。各党の思惑に惑わさない冷静な議論が必要です。

また、国民投票法というのは、あくまで「憲法改正」の是非を問う手続のための法律です。諸外国では、戦後も頻繁に行われている憲法改正ですが、先のとおり、これまで日本ではその議論すら十分になされてきませんでした。今回の国民投票法改正案を含め、憲法改正に対して極めて意欲的な現政権下では、今後、国民一人一人が、憲法改正についてどのように考えるのかについて改めて問われる場面が増えそうです。

交通事故と債務問題のプロ

永野海さん(中央法律事務所)

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