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通勤手当にも社会保険料の不合理

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通勤手当も社会保険料の賦課対象に含まれている

通勤手当にも社会保険料の不合理

今、多くのサラリーマンは、社会保険に加入し、その保険料を給料から天引きされています。しかし、その計算方法は、あまり意識していないかもしれません。

法律では、給料を「報酬」と言っており、社会保険料は「報酬×料率」で計算されます。料率は現在およそ28%。これを会社と折半しているので、個人としての負担は14%になります。月給20万円の人で28,000円ほど。これが給料から天引きされます。決して少ない額ではないでしょう。

では、この「報酬」にはどのようなものが含まれるのでしょうか?厚生労働省は、このように表現しています。報酬とは、「賃金・給料・手当・賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのもの」。つまり、基本給のほかに家族手当や住宅手当・通勤手当なども含まれるとされているのです。

さて現在では、多くのサラリーマンが自宅と会社との間を、さまざまな交通機関を使って毎日通勤しています。そして、それには当然、費用が掛かります。交通費です。この交通費は、会社から「通勤手当」という名目で給料と一緒に支給されている人が多いでしょう。そのお金で定期券を買うのが一般的です。したがって、もらってはいるものの、実質的には手元に何も残らない。これが通勤手当の実態です。

ところが、この通勤手当も社会保険料の計算のベース(賦課対象)に入っているのです。「これは不合理ではないか」という意見が出るのは当然のことでしょう。

社会保険料と所得税で異なる「報酬」のとらえ方

通勤手当を賦課対象から外すか否かとの問題は、過去に何度も衆・参両議院の委員会などで取り上げられています。最近では平成24年9月のことです。しかし、ほとんどの場合、「保険料収入が減少する」との理由で立ち消えになっています。

厚生労働省は、その委員会において、賦課の根拠を昭和27年当時の保険局課長の「疑義解釈の通知」に置いています。その通知によれば「通勤手当は被保険者の通常の生計費の一部に当てられているのであるから(中略)当然報酬と解することが妥当と考えられる」とのことです。

確かに、生計費の定義を「日常生活を維持するのに必要な費用」と考えれば、毎日の通勤は日常生活であり、それを維持するために通勤手当は必要であると言い得るかもしれません。そうすると、通勤手当も「生活するのに必要」だから、賦課対象にならざるを得ないという理屈です。また、厚生労働省は、傷病手当や休業補償などの給付においても、通勤手当を加味した金額を支給しているともアナウンスしています。

一方、所得税などの税制を見てみると、昭和41年の改正で、通勤手当については「勤務に伴う実費弁償的な性質を有する」から、一定額(このときは月額1600円)以下の部分には課税しないとしています。現在では、月額10万円までは非課税となっています。

これは、「報酬」のとらえ方の違いによるものと考えられます。すなわち、所得税では報酬の意味を「労働によって得た金額」と考え、社会保険料では「生計費として必要な金額」、つまり「生活するのに必要なお金」ととらえているのです。

同じ給料でありながら、引っ越しで手取りが減少することも

では、それは果たして合理的なのでしょうか?例えば、基本給と交通費だけが支給されている会社に勤めている人を想定します。基本給が18万円の人が会社の近くに住んでいて、徒歩通勤のため通勤手当はゼロの場合、そのときの社会保険料は、雇用保険を含めて25,362円となり、税金が3,000円とすると、手取りは、151,638円。

この人が、遠方に引っ越したとして、その定期代が月額30,000円だとします。その場合、基本給+交通費で21万円となり、社会保険料は、雇用保険を含めて30,948円となり、税金が3,000円とすると、手取りは、176,052円に。そこから定期代30,000円を支払うと、実質的な手取りは、146,052円となってしまいます。

税制では、この金額の通勤手当は非課税のため所得税は変わりませんが、社会保険料は5,500円も増えてしまうわけです。同じ人が同じ給料でありながら、引っ越しただけで5,500円も手取りが少なくなってしまう。サラリーマンは、実質何の実入りもないお金に賦課されて、その結果、手取りが少なくなっているのです。

実費弁償的な通勤手当を賦課対象から外すように再考すべき

また、事業主は、労働効率には何の影響もない通勤手当を払い、なおかつそれに掛かる保険料も負担しているいるのです。「二重の負担」といえます。加えて、通勤手当は法的に支払の義務がありません。ある意味、恩恵的・福利的なものとも考えることができます。これは、厚生労働省が、賦課対象から外している「結婚祝い金」や「慶弔見舞金」などと同じような慣習的なものなのです。単に、継続的に支給しているから賦課しやすかったのに過ぎないのではないのでしょうか?

厚生労働省は「保険料収入が減れば、保険料率を上げざるを得なくなる。その結果、通勤手当を支給していない中小企業にしわ寄せが行く」ので不公平である、との考えを持っているようです。サラリーマンの手取りが減ることの方が公平なのでしょうか?厚生労働省は、実費弁償的な通勤手当を賦課対象から外すように再考すべきであると考えます。

労基署・年金事務所などの調査対策の専門家

廣岡保彦さん(廣岡社会保険労務士事務所)

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