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先物取引の勧誘、規制緩和の危険性

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経産省と農水省、商品先物取引法の施行規則等の見直し案を公表

先物取引の勧誘、規制緩和の危険性

経済産業省と農林水産省は、リスクが高く、多額の損失を被る危険がある商品先物取引の勧誘の規制緩和を含む商品先物取引法の施行規則等の見直し案を公表しました。この見直し案では,外国為替証拠金取引(FX)や有価証券の信用取引などのハイリスク取引の経験者を規制の対象から外すとともに、これらの取引の未経験者も70歳未満は条件付きで対象外にしています。

具体的には、70歳未満と確認できた場合は、基本契約を交わしてから7日以内の「熟慮期間」に取引の危険性について顧客の理解度を確認する書類を業者がもらえれば、「不招請勧誘」であっても問題が無いという仕組みとなっています。

不招請勧誘の規制緩和で、深刻な消費者被害が増える?

不招請勧誘とは、顧客(潜在的顧客を含む)の同意や依頼なしに行われる勧誘全般を指します。具体的には、飛び込みの営業や業者からかかってきた電話での勧誘が代表的なものです。

商品先物取引は、少額の証拠金で多額の取引ができるシステムであり、大きなリスクを有し、損害も多額になることが多い取引です。商品先物取引を巡っては、長年にわたり多くの深刻な消費者被害が発生し、多くの裁判も行われてきました。特に不招請勧誘の場合、勧誘を受けた側は心の準備もできず、十分な検討もできないままセールストークに乗せられて、本来の意図に反して危険な取引を行う可能性が高く、2006年より順次規制が強化され、平成23年1月には不招請勧誘が原則として禁止されるようになりました。

不意打ち的な勧誘を受けて取引をした場合も「自己責任」か?

経済産業省と農林水産省が規制緩和を打ち出したことについて、日本弁護士連合会は2014年4月10日、商品先物取引についての不招請勧誘禁止緩和に反対する会長声明を出しています。また、各地の弁護士会でも同様の声明が出されています。政府も一枚岩ではなく、消費者委員会(内閣府)も2014年4月8日付けで、経済産業省・農林水産省が示した改正案に反対する意見を出しています。

経済産業省・農林水産省の案では、70歳以上を緩和対象とせず、また監督指針では年金生活者への勧誘を「例外なく不適当」とするなど、高齢者への一定の配慮を示してはいます。しかし、裏を返せばこれらに該当しない人への不招請勧誘は自由にできることになります。先にも述べた通り、多くの事例では巧妙なセールストークに乗せられて高リスクの取引に誘い込まれることが多々あり、これまでの被害事例でも、自分が危険な取引をしていることに気がついたときには、既に多額の損害が生じていることがほとんどでした。このような実体に照らせば、業者は消費者から容易に同意書を取ることができるでしょうし、熟慮期間を設けても被害の防止には十分な効果があるとも思えません。

取引をする人の自己責任という議論もあるかもしれませんが、十分な知識の無い被害者が、不意打ち的な勧誘を受けて取引をした場合にも「自己責任」といって良いのかをよく考える必要があると思います。もちろん、アポなしの勧誘の訪問や電話が迷惑かどうか、ということもあります。消費者被害は「自分は大丈夫」と思っている中で発生しています。今回の問題も他人事にせず、考えていただきたいと思います。

半田望

市民の法律問題を一緒に解決する法律のプロ

弁護士

半田望さん(半田法律事務所)

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