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スマホを向けただけで逮捕?盗撮の境界線

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撮影した映像内容にかかわらず罪に問われる可能性が

スマホを向けただけで逮捕?盗撮の境界線

先日、神奈川県内を走行中の電車内で、男が隣に座っていた女性の全身を着衣の上から小型カメラで動画撮影したとして、神奈川県迷惑行為防止条例違反(卑わい行為の禁止)の疑いで逮捕されたとの報道がありました。報道によれば、撮影された動画には女性の下着は映っていなかったようです。

神奈川県迷惑行為防止条例第3条は、次のとおり、規定しています。

(卑わい行為の禁止)
■第3条 何人も、公共の場所にいる人又は公共の乗物に乗っている人に対し、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) (略)
(2) 人の下着若しくは身体(これらのうち衣服等で覆われている部分に限る。以下「下着等」という)を見、又は人の下着等を見、若しくはその映像を記録する目的で写真機その他これに類する機器(以下「写真機等」という)を設置し、若しくは人に向けること。
(3) 前各号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。

これによれば、下着を撮影しなくても、衣服等で覆われている体を見る、それを映像に記録する目的で小型カメラを人に向けて撮影すると、第3条(2)もしくは同(3)に該当する可能性があります。そして、その方法が、同条柱書にいう「人を著しく羞恥させる」か「人に不安を覚えさせる」ものであれば、同条に違反し、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。

最高裁は着衣の上からでも条例違反との見解

適用された迷惑行為防止条例の内容は若干異なりますが、ショッピングセンター内で前を歩く女性の背後から、カメラ付き携帯電話を向け、ズボンを着用した臀部を撮影したという事案の裁判が行われました。最高裁は被害者が撮影行為に気づいておらず、ズボンの上から撮影されたものであったとしても、「社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らか」で、また、被害者が撮影行為を知れば「被害者を著しく羞恥させ、被害者に不安を覚えさせる」行為であるとしました。

この最高裁の判断からすると、電車内などで隣の女性を撮影する行為は、仮にその女性が気付いておらず、また下着が映っていなかったとしても、「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせる」方法であると考えられます。ちなみに、この最高裁の事案は、前述の神奈川県の条例でいえば、第3条(3)に相当する条項の該当性が争点になったものです。しかし、現在ではほとんどの都道府県の条例でこの第3条(3)に相当する条項が規定されています。

カメラを向けただけでは現行犯逮捕の要件を満たさない

神奈川県の事案では、文言上、実際に撮影したかどうかを問わず、カメラを向けただけで同項違反になるような規定となっています。しかし、カメラを向けただけで、何も撮影していない段階では、果たして「人の下着等を見、若しくはその映像を記録する目的」があったか疑問が残ります。

例えば、電車内である男性が、対面の車窓に映る景色を撮影するためにカメラを向けた方向に、女性がいたとします。その場合、女性を撮影しようとしてカメラを向けた場合と比べても、客観的な態様に明白な違いはないはずです。それを立証するには、撮影者と被撮影者の属性、周囲の状況などに加え、撮影された映像がどのようなものかが重要となります。

したがって、カメラ等を向けただけで何も撮影していない段階では、撮影者が「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」に該当するかは必ずしも明白とは言えず、現行犯逮捕の要件は満たさないと考えられます。そして、映像が撮影されていたとしても、その映像内容によっては、やはり現行犯逮捕の要件は満たさないというべきでしょう。

中小企業の知的財産権を守る専門家

長谷川武治さん(関西生祥法律事務所)

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