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「所持だけで逮捕」の脅威、児童ポルノの定義に疑問

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児童ポルノ禁止法、法律の文言として不明瞭との問題点が指摘

「所持だけで逮捕」の脅威、児童ポルノの定義に疑問

今年の7月15日から、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(いわゆる「児童ポルノ禁止法」)の改正法が施行されました。改正法の主な点は、(1)「児童ポルノ」の定義を追加したこと、(2)児童ポルノの単純所持に罰則を設けたこと(ただし、適用は平成27年7月15日から)です。この2点については、法律の文言として不明瞭である等の問題点が指摘されています。

この児童ポルノ禁止法において「児童ポルノ」は、「18歳未満」の「写真や電磁的記録(インターネットで閲覧できるものと理解していただければ良いと思います)」であり、「(a)児童を相手方とする又は児童による性交類似行為に係る児童の姿態、(b)他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの、(c)衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」と定義されています。

18歳未満のアイドルのグラビア写真を所持するだけで逮捕?

このうち、特に(c)の要件については、どのような写真等が児童ポルノにあたるのか判然としないという批判があります。一見にして、性器等の周辺部とはどこまでを指すのか、臀部、胸部とはどこまでを指すのか、強調されているとはどういう状態を指すのか、性欲を興奮させるものとはどの程度のものを指すのか等、疑問は尽きません。

例えば、18歳未満のアイドルの水着のグラビア写真が載っている雑誌を持っているだけで逮捕されてしまうのではないかという懸念があります。国の説明では、本改正法により定義が明確化されたため捜査機関による濫用のおそれはないとされていますが、個人的には大いに疑問があります。

「自己の性的好奇心を満たす目的」かどうか現実的に判断は難しい

次に、単純所持に罰則を設けた点について指摘します。この児童ポルノの単純所持罪については、「自己の性的好奇心を満たす目的」という要件があります。この要件、具体的にどういう目的を指すか理解できるでしょうか?

例えば、18歳未満のアイドルのファンが、そのアイドルの際どい水着写真が載っている写真集を所持していた場合、そのファンには「自己の性的好奇心を満たす目的」があると考えるべきでしょうか。性的好奇心を満たす目的で写真集を持っているかどうか、どのように判断すべきでしょうか。なかなか判断が難しいケースもあり得るでしょう。

法律の存在自体、疑問視せざるを得ないものになる可能性も

一方で、この単純所持罪は、「自己の意思で所持するに至った者」であることが「明らかに認められる者」でなければ処罰されないことになっています。また、本法における適用上の注意(第3条)として、児童ポルノ禁止法の本来の目的を逸脱して濫用してはならないという規定もあります。これらを厳格に運用することになれば、結果としてほとんどのケースで摘発ができないという状況も有り得ると思われます。

そうなれば、この児童ポルノ禁止の改正法は、そもそもとして表現行為への委縮等、様々な弊害が予見されるうえに、刑事法規としては甚だ曖昧であり、かつ適用することさえ困難という、法律の存在自体、疑問視せざるを得ないものになりかねません。つまるところ、立法者の自己満足に終わってしまう可能性が危惧されるところです。平成27年7月15日以降の単純所持罪の運用に注目したいと思います。

河野晃

自然体で気軽に相談できる法律のプロ

弁護士

河野晃さん(水田法律事務所)

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