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テレビない人からも「NHK受信料」徴収の野望、現実のものに?

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総務省、テレビのない世帯からもNHK受信料の徴収を検討

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先日、総務省が、NHKの受信料について、テレビのない世帯からも徴収することを検討し始めたとの報道がなされました。

もともとは、平成22年9月にNHK会長の諮問機関として設置された「NHK受信料制度等専門調査会」が、翌年7月12日にインターネット端末機でのみNHK放送を視聴する場合にも受信料負担を求めることが望ましいとの答申を出し、平成26年6月には、NHKがインターネットを活用したサービスを恒常的に提供できるようにするための改正放送法も成立しましたので、そういった流れの一環として、テレビがなくてもパソコンなどのインターネット端末機を持つ世帯に受信料を負担させる案や、全世帯に受信料を負担させる案が出ているようです。

パソコンを購入してもテレビを見ない人は当然いる

現在の放送法64条1項は「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備…を設置した者については、この限りでない」と定めています。パソコンなどのインターネット端末機を持っているからといって、受信契約をする義務があるといえるのかどうかについては、この放送法64条1項の但書が問題となります。

NHK側は、放送の受信が可能である以上、「放送の受信を目的とする受信設備」であると解釈するでしょう。しかし、インターネットの世界は、テレビ放送を受信するために作られてきたものではありませんし、パソコンを購入してインターネットを利用することはあっても、テレビを見ない人だって当然いるでしょう。あくまでも、インターネットの世界に放送業者が事後的に参入するようになったに過ぎないため、インターネット端末機そのものは「放送の受信を目的としない受信設備」と解釈する方が国民の感覚に沿っているように思います。

また、インターネットを利用する人は、そもそもプロバイダー契約を締結して通信料を負担しています。別途NHK受信料まで負担しなければならないというのは、そう簡単に理解を得られるものではないでしょう。

NHK受信契約の成立時期の判決がわかれてしまっている状況

さらに、現在の放送法の規定は「放送の受信についての契約をしなければならない」と定めているのみで、受信契約を拒否した場合にどうなるのかという点も明確ではありません。

受信機があるのに受信契約を拒否し、受信料の支払いを拒否していた者に対して、NHKがその支払いを求めて提訴した民事訴訟では、東京高裁の平成25年10月判決では、契約を拒否しても、NHKによる受信契約の申込みがなされてから2週間が経過したときに受信契約が成立するとの判断がなされました。

しかし一方で、東京高裁の別の裁判体による同年12月判決では、NHKによる受信契約の申込みがなされて相当期間が経過すれば自動的に契約が成立するものではなく、契約である以上は、当然に申込みの相手方が承諾しなければ契約は成立しないとの前提で、契約は受信者に対する契約の承諾を命ずる判決が確定した段階で成立すると判断するなど、判決がわかれてしまっている状況です(いずれの判決に則るかによって、契約の成立時期が異なってきますので、受信料の未払いとされる期間がズレることになります)。

テレビがなくても受信料を徴収できるようにするには、拙速に放送法を改正しようとせず、やはりしっかりとした議論を重ねて、国民の理解が得られるような方法で行う必要がありそうです。

田沢剛

法的トラブル解決の専門家

弁護士

田沢剛さん(新横浜アーバン・クリエイト法律事務所)

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