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裁判所にも頼れない安保法案、国民の責任の重さ

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衆議院本会議において可決された法案が問題に

平成27年7月16日、衆議院本会議において、平和安全法整備法案及び国際平和支援法案(以下「本法案」といいます。)が可決されました。本法案は、「自衛隊法の改正」「重要影響自体安全確保法(周辺事態安全法の改正)」「船舶検査活動法の改正」「国際平和協力法の改正」「事態対処法制の改正」「国家安全保障会議設置法改正」「国際平和支援法の新設」など多岐に渡りますが、重要なポイントとされているのは、存立危機事態関連の自衛隊法改正及び関連法制の改正です。

改正法案では、自衛隊法76条が定める防衛出動において、内閣総理大臣が自国を防衛するために必要があると認める場合、自衛隊の出動を命ずることができる事態として、従来の規定である我が国に対する武力攻撃またはその明白な危険が切迫している事態(1項)のほか、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」が加えられています。

これが、集団的自衛権にあたり、「憲法9条に違反するのではないか」「武力紛争に巻き込まれる危険を冒してまで改正を行う必要性があるのか」「国を左右する重大な政策であるのに、十分な議論がされていないのではないか」などと問題になっています。

改正提案に至った経緯とは

憲法9条1項では、戦争等の放棄を2項前段において「戦力の不保持」をうたっています。従来の政府は、自衛権のための必要最小限度の実力は憲法で保持することを禁じられている戦力に当たらないが、自衛権の行使が許されるには必要性、違法性、均衡性の3要件が必要で、我が国に対する急迫不正の侵害がある場合を自衛権発動の条件としていました。

ところが、平成26年の閣議決定で自衛権発動の条件を変更し、「わが国あるいはわが国と密接な関係のある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」として今回の改正の提案に至っています。

最終判断権者である国民1人1人の責任は決して軽いものではない

集団的自衛権を部分的に認め、憲法9条に反するという意見が憲法学者の大半を占めているという状況で、憲法改正によらず、本法案が衆議院で採決された事態に危機感が持たれていると思われます。裁判所には違憲審査権が認められていますが、権力分立の観点から司法権の行使に付随する審査制をとっているため、裁判所による憲法解釈は具体的な事件を前提とすることが必要です。また、具体的な事件に付随する形となっても、高度に政治的な問題である場合、一見極めて明白な違憲、違法といえない場合には、民主的な基盤のない裁判所は違憲立法審査を差し控えるべきではないかという統治行為論の問題もあります。

徴兵制など直接国民の権利を制限する法律でない限り、裁判所の違憲立法審査権の行使に全てを期待するには限界があります。また、本法案の議論の中心は、民主制の過程である国会による、立法の場で行うべき問題であると考えられます。60日ルールにより本法案の成立の可能性は高くなっていますが、仮に法案が違憲であると考えるのであれば、次回以降の選挙で違憲状態を正す改正案を争点として提起して、民意を示すことが必要です。

これができなければ、憲法の本来の意味が国家権力の運用によって変化するという、憲法の変遷を受け入れてしまう事態になりかねません。本法案に関して、最終判断権者である国民1人1人の責任は決して軽いものではない点に、注意する必要があります。

企業法務と事業承継支援の専門家

大西隆司さん(なにわ法律事務所)

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