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刑事事件の保釈率が過去最高、要因は裁判員裁判制度?

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刑事事件の保釈率が過去最高を記録

刑事事件の保釈率が過去最高、要因は裁判員裁判制度?

9月の神戸新聞の報道によれば、「刑事事件で起訴後に保釈された被告の割合を示す保釈率が昨年、全国の地方裁判所で平均25.1%となり、2000年代に入り最も高かったことが、最高裁判所への取材で分かった」とのことです。

保釈とは、刑事事件において被告人を勾留する代わりに、その出頭の確保ができる程度の保証を立てさせて身柄を釈放することです。万が一、被告人が逃亡するなど一定の事由が生じた場合には、保釈を取り消して保証金等を没取するといった財産的苦痛を用意しておくことで、被告人に心理的な拘束を加え、その出頭ないし身柄の確保を目的としています。

保釈の請求がなされた場合には、「被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき」「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」などの一定の事由がない限り、保釈を許さなければなりません(刑事訴訟法89条1項。これを権利保釈と言います)。また、そのような事由がある場合でも、裁量で保釈を許すことがあります(同法90条。これを裁量保釈と言います)

裁判員裁判を指揮する裁判官側の意識の変化が顕れた結果

冒頭の報道にある通り、近年の保釈率は上昇傾向にあり、その原因に裁判員裁判制度の導入に伴う裁判官の意識の変化があると言われています。どのようなことかというと、裁判員裁判の対象となる重大事件は、大半が「被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき」であり、権利保釈が認められないため、裁判官裁判時代には保釈率は高くありませんでした。

しかし、裁判員裁判のもとでは、公判前整理手続(最初の公判期日の前に、裁判所、検察官、弁護人が争点を明確にした上、これを判断するための証拠を厳選し、審理計画を立てる手続)が行われることになり、その手続が進めば罪証隠滅のおそれが減少すること、公判期日が連続して行われるとなると訴訟準備のために弁護人と被告人との打合せが必要になることなどから、保釈の弾力的運用が図られるべきであると指摘されていました。このような指摘が、裁判員裁判を指揮する裁判官側の意識の変化となって顕れてきたのではないかと考えられるというわけです。

勾留や保釈についての裁判所の運用が正常になりつつある

また、保釈率の上昇は、そもそも勾留される被告人の数自体が減っていることも一因と考えられます。人質司法が罷り通っていた時代には、抽象的な「逃亡の恐れ」や「罪証隠滅の恐れ」を理由として勾留状が発付されていましたし、保釈も認めない傾向にありました。しかし、近時の最高裁自体がこのような「恐れ」があると認めるためには具体的な根拠が必要であると判断するなど、人質司法からの脱却を目指そうとする傾向が見受けられます。

憲法上、人身の自由が保障されており、身柄の拘束を認めるには相当の理由が必要となるはずであるため、「逃亡の恐れ」や「罪証隠滅の恐れ」に具体的な根拠がなく、抽象的な不安程度に過ぎない場合に身柄の拘束を認めるようなことはあってはなりません。その意味では、勾留や保釈についての裁判所の運用が正常になりつつあるものとして、望ましいことといえるでしょう。

田沢剛

法的トラブル解決の専門家

弁護士

田沢剛さん(新横浜アーバン・クリエイト法律事務所)

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