関電社長「逆転勝訴で住民に賠償請求も」 弁護団が抗議

 | 弁護士
田沢 剛

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関電社長が「逆転勝訴で賠償請求も」と発言した意図

少年法適用年齢引き下げの妥当性、教育的観点からの考察住民が申し立てていた高浜原発3,4号機の運転差止仮処分について,大津地裁がこの3月9日にこれを認める決定を出したのに対し,関西電力の社長が逆転勝訴の場合は損害賠償請求の検討の対象となる旨の発言をした模様で,住民側の弁護団が,恫喝であるなどと抗議文を送ったとの報道がなされました。

 民法709条は,「故意又は過失によって他人の権利または法律上保護された利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定しておりますので,不法行為に基づく損害賠償請求が認められるためには,この条文が定めた要件を充足する必要があるわけですが,裁判所において不利な判断を受けた当事者が,これに対して不服申立てをして上級審等から逆転勝訴の判断を受けた場合,相手方当事者に対し,裁判手続に巻き込まれたことで被った損害の賠償責任を追及できるものなのでしょうか。

民事訴訟を提起することが不法行為となるのはよほどの例外

 この点について,最高裁判所は,「法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求めうることは,法治国家の根幹にかかわる重要な事柄であるから,裁判を受ける権利は最大限尊重されなければならず,不法行為の成否を判断するにあたっては,いやしくも裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされることは当然のことである。
したがって,法的紛争の解決を求めて訴えを提起することは,原則として正当な行為であり,提訴者が敗訴の確定判決を受けたことのみによって,直ちに当該訴えの提起をもって違法ということはできない」,「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において,訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる」と判断しておりますので,民事訴訟を提起することが不法行為となるのはよほどの例外的な場合といえます。

民事保全手続の場合は不法行為と評価されることも

しかしながら,仮処分のような民事保全手続は,民事訴訟手続の結果を待っていては,権利の実現が困難となりかねないために認められた暫定的な手続であり,権利の存在についての立証の程度が「疎明」(一応確からしいという程度)で足りるものですから,上級審等で逆転判断を受けた場合に民事保全申立てそのものが不法行為と評価される余地は,民事訴訟手続の場合よりも広くなってきます。

最高裁判所も,民事保全手続でそのような事態が生じた場合には,「特段の事情がない限り,申請人において過失があったものと推認するのが相当である」と判断しているところです。

但し,他方で「申請人において,その挙に出るについて相当の事由があった場合には,(保全命令)取消の一事によって同人に当然過失があったということはできず,…」とも判断して含みを持たせておりますので,やはり民事訴訟の前段階の手続であったとしても,そのような手続を利用する権利は尊重されなければならないとの価値判断が根底にあるように思われます。

賠償請求請求訴訟を起こすこと自体,不当訴訟と扱われる可能性も

 高浜原発の仮処分決定が上級審等で覆された場合,住民側に損害賠償責任が生じるのかを以上の枠組みで考えてみますと,原発事故の引き起こす甚大な災害に鑑みたとき,住民側が仮処分命令の申立てをしたこと自体に過失があったとか,その申立て自体が違法であるなどとは到底いえないと思われます。

特に,今回の仮処分の審理手続においては,関西電力側にも反駁の機会が与えられており,それを経たうえで仮処分決定が下されたことを考えますと,尚更です。

 そうなってきますと,関西電力の社長の発言に対して住民側が反発することも無理からぬところであり,関西電力が住民側に損害賠償請求訴訟を提起すること自体が,逆に不当訴訟と扱われるのではないかといった問題も持ち上がってくるかもしれません。
                             

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