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野球賭博問題 処分に不公平は無いのか?

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高木京介投手の1年失格処分が投げかけた波紋

 日本野球機構(NPB)は、3月22日、巨人高木京介投手を野球賭博に関与したとして1年間の失格とする処分を行いました。
これは、昨秋に発覚した同じ巨人の3投手が無期失格であったのと比べて、高木投手自身、3投手が「無期ということを思うと心が痛い、苦しい。・・・予想しなかった裁定」と語ったほど、微妙な問題に感じられます。今回の処分をどう考えたらいいのでしょう。

 処分の根拠となった野球協約第180条は、野球関係者の賭博行為・暴力団員等との交際を禁じ、処分内容を1年間か無期の失格処分とすることを定めています。
今回の処分の差が極めて大きく感じられる原因は、協約で処分が2種類に限られていることにあります。
としても、結果だけ見るとあまりに大きな開きに疑問が湧いてくるのも事実です。
果たして高木投手が1年とされたことに納得できる事情があるのでしょうか。

賭博への関わり度合いで大きく変わった処分内容

 処分は熊崎勝彦コミッショナー(元東京地検特捜部部長)が調査委員会の処分案を受けて下したものですが、調査委員会は処分に先立ち記者会見を行い、1年間の失格処分が相当とする理由を説明しています。

これによれば、高木投手は、昨年10月の聴取では野球賭博を認めず、今年に入って認めたことについてのマイナス部分があるが、10日間ほどの間に3、4回、8~9試合かけただけですぐにやめていること、その後他の選手から各種賭博を数回にわたって勧められたが断っており、3選手が、賭けマージャンやバカラ賭博、高校野球やメジャーリーグの試合にも賭けていたことと比較して、野球賭博に関する関わり方が相当に浅く、また、自ら野球賭博常習者との関わりを毅然として絶つことを決意してそれを絶って自己の行為を真摯に反省していること等を総合的に判断したということです。

熊崎コミッショナーも「程度、深さ、期間、回数、それから経緯、その後の経緯といったものを分析、検討すると、客観的に見て、3選手との間に相当な差異が認められることは明らか」と説明しています。

無期失格選手が裁判を起こしたらどうなるか?

 これらの事情をみれば、今回処分が分かれたことについては概ね理解できる気がします。
 では、仮に昨年処分を受けた3選手が今回の処分と比べ自分への処分は重すぎる、と裁判を起こしたらどうなるでしょうか?法律的には3つの壁があるように思われます。

 まず、1つは、日本野球機構の自立性の壁です。
例えば大学内の人事の争いとか宗教団体内部の争いのように憲法による自立権保障の趣旨や争われる内容の専門性から、裁判の対象とすることはなじまない、としてそのような争いが裁判所に持ち込まれても訴えとして受理せず却下するという扱いが学説でも判例でも認められています。
野球協約の適用をめぐる争いがそこまで専門性が高いかは疑問もありますが、高度な職能団体として自立性が尊重されるべきだとして、よほど深刻な人権・利害にかかわる事案でなければ司法審査の対象としないと却下されることが予想されます。

 2つめは、裁量の壁です。仮に訴えが認められたとしても、野球協約を承認し、それを遵守するものとしてその世界に入った人にとっては、その協約で定められている機関により、協約とそれが定める手続に従って下された処分については、それがよほど不合理でない限りその機関の裁量が尊重されるべきだ、として請求が棄却されることが考えられます。

 3つ目はバランス論です。一般の企業などの各種処分や懲戒処分の場合には、当該処分の妥当性、適法性は、同種の行為に対する過去の処分や他の企業・団体での処分と著しくバランスを失している場合に不当・違法とされる場合が多いと思われます。
この点で今回の調査委員会やコミッショナーの説明からするとバランスを失しているとまでは言いにくいように思われるからです。

今回の処分は、一般企業・団体にも参考になるところが多い

 ところで、一般の企業・団体では、処分例も少なく先例を探すのが難しいことが多いでしょう。
したがって、社会でどのような処分が行われているか、このような事務を担当している方は常日頃アンテナを張っておく必要があるでしょう。
また、社会的に注目される処分を行う場合は、今回のように充分説得的な理由・事情を説明することが求められるでしょう。

 なお、野球協約では 無期の失格処分を受けた者でも処分後5年経過し、その間善行を保持し、改悛の情顕著な者は復帰が認められています。実質的な開きは、字面ほどは大きくないかもしれません。

法律相談のプロ

青島明生さん(富山中央法律事務所)

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