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厚生労働省が監査対象の基準を残業時間80時間に引き下げへ

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厚生労働省が長時間労働への監査を強化

厚生労働省は、4月1日より労働局に新たに長時間労働の問題を担当する労働基準監督官を配置し、企業に対する監査の対象を、これまでの残業時間100時間から80時間に引き下げるという方針を示しました。

その背景には、長時間労働により家庭と仕事の両立を難しくし、女性の活躍を阻み、少子化の原因となっているとの指摘があったこと、また長時間労働により脳血管疾患や虚血性心疾患の発生のリスクが高まるとされていることがその要因であると考えられます。

しかしながら、取り締まりを強化することで、抜本的に残業時間が削減され、これらのことが改善・実現されることになるのでしょうか?
私自身は、疑問を抱かざるを得ないというのが正直なところではあります。

経営者の意識改革だけでは長時間労働問題は改善できない

経団連会長や日商会頭は、「経営者の意識改革が必要」と対策強化の必要性に理解を示しています。
私自身も長時間労働に対する問題意識が薄い経営者がいることは否定できないと思いますし、意識改革は重要なことであると考えます。
なぜなら、意識改革で改善が図ることができれば、手間隙が掛からず、すぐにでも取り組むことができることから、最も即効性のある方法の1つであると考えられるからです。

しかし、一方では、長時間労働に対して問題意識を持っていたとしても、人材の確保や育成が困難な場合や会社経営だけで手一杯になってしまい、労働時間管理などの労務管理に手が回らないという中小・零細企業も少なくないのではないかと考えられます。

今回の方針が具体的にどのような規模の事業所を対象にしているかは分かりませんが、仮にそのような問題を抱えている中小・零細企業にも規制のみを課すことで、事業経営に支障を来たすようなことがあれば、経済状況の悪化や雇用の喪失を招く可能性がないとは言い切れないのではないでしょうか。

ただ、だからと言って長時間労働が黙認されるはずはなく、事業主には従業員に対する適切な労務管理と健康管理上の安全配慮義務の責任があることから、今回の方針は妥当なものであり、事業主が遵守すべきものであることは言うまでもないでしょう。
ですので、長時間労働の削減という結果が求められるのは当然のことであるとは思います。

長時間労働に至る原因調査とそれに対する改善、実施が大事

しかし、私が疑問に感じたのは、長時間労働に至るプロセスや原因については具体的な議論はあまりされず、その部分については現場まかせになっているのではないかということです。
その結果、抜本的な改善に繋がらず、見せ掛けだけに終わってしまい、様々な部分で無理やひずみが出てくる可能性があるのではないかということです。
そのため、まずは80時間を越える労働を強いられる原因を調査・ 把握し、それに対してどのようにアプローチして改善策を講じるかについて併せて考え、いかに実践していくかが大事ではないかと思います。

今回の国の方針を機に長時間労働の抜本的な見直しを

もちろん、口で言うのは簡単かもしれませんが、今回の国の方針を良い機会と捕らえ、抜本的な長時間労働の見直しを図るという考え方も1つの手ではないでしょうか。

その手段としては、各個人の業務量の把握と能力に応じた業務配分、適正配置、残業時間管理の徹底を図るための時間外労働を行わせる際の申告手続きの明確化と徹底、管理職の労働時間管理等の管理能力の向上を図る研修の実施、労働時間管理に関する責任の明確化などが挙げられると思います。

重要なことは、結果を出すための組織体制の見直しや構築、諸規定の整備など、抜本的な改善・ 改革ではないかと思います。
当然、相当な労力と時間を要することになるとは思いますが、それに見合うだけの将来に対する投資と考えれば、そんなに高い代償ではないかも知れません。

その上では、国も結果のみを求めて、その経過を事業主任せにするだけでなく、そのプロセスに対する援助や補助、制度や仕組みの構築など、現場に寄り添った対応についても具体的な検討をお願いしたいものです。

困難に寄り添い解決に導く社会保険労務士

石野慎也さん(石野社会保険労務士事務所)

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