中古住宅の安心な売買に向け インスペクションが本格普及へ

 | 不動産コンサルタント
加藤 豊

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安心な中古住宅取引の環境を作る「改正宅建業法」。2018年4月から本格施行

安全な不動産取引の環境を作り、中古住宅市場を活性化するためにも、「ホームインスペクション」(建物状況調査)の活用を促すことを目玉とした改正宅建業法が成立しています。

本法案を平たくいうと、【Ⅰ】中古住宅の取引において情報提供を充実させること、【Ⅱ】取引で損害が発生した個人を確実に救済すること、【Ⅲ】宅建業者(不動産会社)の能力を向上させ消費者によりよいサービスを提供すること、という3本柱で構成されています。

【Ⅱ】は、不動産業者が営業を始める際にあらかじめプールしておくお金(保証金)を、個人消費者のためだけに利用させるようにしたものです。
宅建業者は不動産取引のプロとして、損害が生じても自己責任で解決することとし、保証金を取り崩すことを禁じたのです。
また、【Ⅲ】は消費者利益を保護するという考えの下、宅建士などの能力や資質を維持向上させる取り組みを(個別の会社単位ではなく)業界団体全体で取り組んでいこうとするものです。

主に【Ⅱ】【Ⅲ】に関する法律が今年4月から、目玉となる【Ⅰ】のインスペクション関連は2018年4月から施行されます。
特に【Ⅰ】については未だに議論が重ねられているところですが、2016年12月26日に国交省の分科会が改正法の運用のあり方をまとめ、不動産取引の新たな実務内容が明確になってきています。

中古住宅への不安払しょく・購入判断の材料・売買後のトラブル防止に貢献

2018年4月より、中古住宅の不動産取引において、媒介契約・重要事項説明・売買契約の3場面において変化があります。
具体的には、宅建業者が売主または買主と媒介契約を結ぶ際、「インスペクション業者をあっせんできるかどうか」を書面で示します。
あっせん可能な場合は、依頼に応じてインスペクション業者を手配し、構造耐力上主要な部分や雨水の侵入を防止する部分など、建物の重要部分について客観的な調査を行わせます。
その結果は、重要事項説明において買主などに伝えられます。
さらに売買契約時には建物状況について売主・買主双方が確認したことを証した書面を交付する、という変化があるのです。

これらに期待される効果として、まず宅建業者からインスペクション業者のあっせん可否の書面通知があることで、インスペクションを知らない消費者にも「購入前に中古住宅を調査できる手段がある」ことが周知され、中古住宅取引の不安を和らげることがあります。
また、インスペクション結果は購入判断の材料となり、売買価格の調整にも繋がります。
安全かつ実態に合わせた適正な取引がなされるようになるでしょう。
さらに、売主・買主がお互いに建物状況を確認した上で不動産の引き渡しを行うため、売買後のトラブルを未然に防ぐ効果もあります。

インスペクションは万能でない。万が一には「既存住宅売買瑕疵保険」で備える

注意点として、インスペクションの実施そのものを宅建業者などに義務付ける法律ではないということです。
“実施するのであれば”、その結果を重要事項説明において“説明する義務”が課されるものです。
売主や買主の要望がなければ、インスペクションしないという選択肢も残されているのです。

また、インスペクション結果は瑕疵がないことを保証するものではなく、建物の隅々まで調査するものでもありません。
検査方法も基本的には目視や触診などの非破壊検査に留まります。
検査範囲も足場を組まない程度に留め、屋根裏や床下も点検口から目視確認できる範囲を想定しています。
さらに、瑕疵があるかないかも保証せず、耐震性や省エネ性能を判定するものでもなければ、建築基準法令の違反有無の判定を目的としたものでもありません。

そのため、万が一に備えたい場合には、購入後に瑕疵が判明した場合に補修費用を補償する「既存住宅売買瑕疵保険」が用意されているのです。

正しい周知と客観性を担保したインスペクションが必須。見直しを前提としたスタート

インスペクション制度には課題もあります。
そもそも、売主が「インスペクションを許可しない」と言えば建物調査ができません。
建物に問題がなくても、「自宅に入ってこられるのが嫌だ」「そんなこと聞いたことがない」など新たな制度に対する認識不足も考えられ、この改正宅建業法の目的を正しく周知することがファーストステップでしょう。

また、物件を売りたい不動産会社が、インスペクション結果を過度に良く説明したり、逆に、リフォーム業を営む不動産業者が、調査結果を過度に悪くみせて修繕工事を受注することなども考えられます。
先行してインスペクションを導入している海外では、実際にこのようなインスペクションの根幹を揺るがす利益相反の事例が少なくありません。
国交省もこの点を強く認識しており、中立性・客観性を求めガイドラインにも盛り込んでいます。
例えば、リフォーム業を営んだり建設業者などと資本関係にある宅建業者は、依頼主にその旨を開示させたり、自らが売主となる物件についてはインスペクション業務を実施しないことなどです。
また、国交省はインスペクション業者の「検索システム」の構築も予定しており、仲介業者を通さず買主自ら業者を選定することが容易になれば、より客観性が保たれるでしょう。

今後、実際に施行されればさまざまな課題が浮き彫りになってくるでしょう。
政府もそれを見越して、施行後5年過後した時期に改めてこの法律を見直し、必要な措置を講じることとしています。
また、不動産業界団体とも連携し、毎年度の実施報告を求めることも想定しています。

いずれにせよ、中古住宅の取引を適正化させる大きな一歩を踏み出したといえます。
今後は不動産会社(宅建業者)の役割がますます大きくなり、その質も問われることになるでしょう。
消費者と業界が一体となって、中古住宅取引がより安心安全なものとなることを強く期待します。

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