「ヘイトスピーチ」典型例の提示が意味するもの

 | 弁護士
半田 望

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ヘイトスピーチ典型例を法務省が提示

特定の人種や民族などへの憎悪をあおる「ヘイトスピーチ」について,2016年6月に「ヘイトスピーチ解消法」(正式名称は「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」)が施行されました。
また,法務省が同法の基本的な解釈をまとめ,同法で許されないとした「不当な差別的言動」の具体例をいくつかの自治体に提示していたことも報道されています。

法務省が例示した具体例として報道されているのは,脅迫的な言動として「○○人は殺せ」「○○人を海へ投げ入れろ」というもの,著しく侮蔑する言動として,「特定の国・地域の出身者について『ゴキブリ』などの昆虫,動物に例えること」や侮蔑する隠語や略語を用いること,地域社会から排除することを扇動する言動として「○○人は祖国へ帰れ」などが示されています。
今回法務省が具体例を示したことは,これがヘイトスピーチの内容や典型例を明確にした点で意義があると考えられます。

ヘイトスピーチ解消法とは?

法務省の例示のような言動を特定人や特定の団体を名指しして行った場合,刑法上の名誉毀損罪や侮辱罪の問題となりえます。
ですので,このような場合についてはあえてヘイトスピーチ解消法を用いるまでもなく,違法な行為と評価することができます。
しかし,特定の個人・団体ではなく,国家や地域,人種と言った大きな属性に対しこれを誹謗するような言動が行われた場合,直ちに名誉毀損罪や侮辱罪の対象とはなりません。
刑法はあくまで個人の権利を守るものであり,特定の属性を守ることまでは守備範囲ではないからです。

しかし,明らかに差別的で憎悪に満ちた言動を野放しにすることもできません。
そこで,これらの言動を「不当な差別的言動」と定義し,行政機関がデモ等の際の施設利用許諾の判断等で考慮すべきとしたのがヘイトスピーチ解消法です(なお,同法には罰則はありません)。

もっとも,ヘイトスピーチは許されるものではないという前提をとりつつ,表現そのものの内容に着目して,法律で許される言論とそうでない言論を区別することは「表現の自由」を侵害する危険がある,という指摘もあります。
法務省がヘイトスピーチの具体例を示したのは,上記指摘をふまえて規制範囲が不相当に拡大することを防止し,行政機関の恣意的な判断を防止する意味で重要であると考えます。

ヘイトスピーチ解消に向けて

ヘイトスピーチは,特定の属性に対し差別的で憎悪に満ちた表現を向けることで,その属性を有する個人の名誉や尊厳をも直接または間接的に侵害する行為であり,到底許されない行為であると考えます。
しかし,前述したとおりヘイトスピーチすべてを名誉毀損等で処罰することは難しいのが現実です。
また,規制を求めるあまり,刑罰法規の安易な拡大解釈をおこなうことはかえって問題です。

もっとも,規制慎重派の意見のように本来であればヘイトスピーチに対抗する言論で対策に臨むべきですが,現在のようにデモ等が暴力的な様相を呈するという,言論活動の中での解決が難しい状況では,今回の法務省の例示のように対象を限定する形で規制の網をかぶせることはやむを得ないところだろうと思います。

しかし,他人に向けた規制は等しく自分にも向けられる,ということは忘れてはなりません。
ヘイトスピーチを解消するという目的を忘れ,権力者に都合の悪い言論もヘイトスピーチのように規制されることがないよう,国民一人一人が気をつけなければいけません。

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