宅配業者次々値上げ要請へ 物流急造で配送や人材確保の負担が限界に

 | 経営コンサルタント
清水 泰志

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宅配便最大手のヤマト運輸が27年ぶりに値上げへ

342561830dc3b4ab4bd0d5761768fc00_m3月7日宅配便最大手のヤマト運輸が、個人顧客分を含めた運送料金を9月末までに全面的に値上げする方向で検討に入ったことが分かりました。
全面値上げは消費税増税時を除けば27年ぶりとなります。
法人向け料金は、繁忙期の割増料金追加なども含めて検討するとのことです。

宅配最大手のヤマト運輸が運賃値上げに踏み切ることで、佐川急便や日本郵便などの同業他社も値上げに動く可能性が出てきています。
これに先立つ4日、ヤマト運輸は約7万6千人の社員を対象に残業の実態を調査して、支給すべき未払い残業代をすべて支払う方針を固めていますが、必要な原資は数百億円規模にのぼる可能性があります。

ネット通販市場が拡大し宅配便の取扱個数が急増

これまで宅配業界では、大口法人顧客向けに割安な運賃を適用することで、シェアを奪い合う構図が続いているために、会社側は給与水準を下げたり、サービス残業を常態化したりするなどして、売上高の50%を超える人件費を抑制することで利潤を確保してきました。
ところが、ネット通販ビジネスが拡大する中で、荷物の取扱個数が急増しているために、慢性的な人手不足に陥っている現場の状況改善のためには、ドライバーを中心とした人材の待遇改善を余儀なくされたのです。

宅配便の取扱個数の増加の背景には、ネット通販市場の拡大があります。
この市場は、過去10年間で9千億円台から2015年には13.8兆円と10倍以上に急拡大しています。
しかも、市場拡大の勢いは衰えず、野村総研は、東京五輪が開かれる2020年には22.9兆円になる予測を立てています。
こうしたネット通販発の荷物の増加により、国交省の調べによると10年前の2005年度は29.2億個だった宅配便の取扱個数は、2015度は37.4億個と28%の増加をしています。

しかし、取扱個数が増加する一方で、宅配業界のシェア争いは激しく、荷物の平均引受単価は下落し続けています。
10年前の2007年と比較すると、ヤマト運輸が650円弱でしたが、2015年は595円となっています。
佐川急便の場合、2007年が約530円でしたが、2015年は504円となっています。
この間、佐川急便は2013年に460円と過去最低の平均引受単価になりましたが、大口顧客だが運賃が安いアマゾンとの取引から撤退することで、平均単価を504円まで戻してきているという状況があります。

宅配便個数の急増で従業員にしわ寄せが

ヤマト運輸は、佐川急便が撤退後もアマゾンの配送業務を継続し、採算に目をつぶって荷物を際限なく受け入れてきましたが、ついにヤマト運輸労働組合は、宅配便個数の抑制を会社側に求めました。
具体的には2017年度の取扱個数を、2016年度の数量を超えない水準にするように要望しました。

宅配業は、表に出ているセールス・ドライバーだけでなく、仕訳拠点の作業員や拠点間配送を受け持つ下請け長距離運転手など多くの人員によって成り立っています。
ヤマト運輸が売上高人件費率は50%を超えているように、宅配業は典型的な労働集約産業です。

従業員数を見ると、ヤマト運輸は20万人で、上場企業内で8番目に当たります。
売上高で見ると、ユニクロのファーストリテイリングと同程度ですが、ファストリの従業員数が4万人強であることと比べると、いかに労働集約率が高いビジネスであるかが分かるはずです。
そこで宅配業界は、長年労働者にしわ寄せをすることで利潤を確保してきた結果、製造業や建設業と比べて、勤務時間が長いうえに低賃金であるという評価が定着してしまい、人手が集まりづらい状況が常態化しています。
しかし現段階で、人手の確保のために労働条件を適正化すれば、利益の全てが吹き飛ぶほど脆弱な産業なのです。

難しい宅配事業者の合理化への取り組み

そのため宅配事業者は、労働集約的な業界体質を少しでも改善するべく、合理化の取り組みを今後より一層行っていく必要があります。
現に、シェアリング・エコノミー型サービス、自動運転による輸送の無人化、AI・機械学習による物流の自動化と最適化などの試行や開発が行われています。
しかし、こうした施策だけで宅配業界の現在の問題がすべて解消はしないところに、問題の根の深さがあります。

例えば、再配達率の高さが、宅配便のラストマイルの配送効率を落としているという問題があります。
大手宅配便事業者が行った調査によると、不在による再配達率は約20%に達しています。
しかも、全体の荷物のうち3.5%は2回以上の配達が必要でした。
さらに、時間指定がされている荷物の割合は18%でしたが、それにも関わらず再配達になった割合は17%にものぼるとのことです。
国交省の試算によると、この再配達のために9万人のドライバーが必要になり、トラックの全走行距離のうち25%が再配達のための走行であるので、ドライバーの労働時間の問題だけに留まらず環境問題という点でも見過ごせない事態になっています。
再配達の負担を減らすために、既にコンビニ受取や駅に宅配物ロッカーの設置を進めるなどの取り組みが行われていますが、時間指定をしたにも関わらず不在だった場合、追加費用を荷受人から徴収するペナルティーも検討課題にあがっています。

しかし、「送料無料」で「即日配達」、しかも何度でも無償で「再配達依頼」という現在の宅配便事情にすっかり慣れきった私たち日本人は、こうした公正な費用負担に対して「改悪」だと主張して、大きな抵抗を示す傾向が強いのです。

米国の宅配業の現状と日本の宅配業のあるべき姿

宅配便の先進国である米国に目を向けると、宅配事業者の運賃支配力は、日本の宅配便と比べると圧倒的に強いという特徴があります。
例えば、石油価格に連動する「燃料追加料金」、配送先が事業所ではなく一般家庭の場合の「家庭配送追加料金」、配送効率の悪い地域に対する「配送地域追加料金」などがあります。
さらに、米国の二大宅配業者であるUPSやFedExは、容量重量価格と呼ばれる運賃制度を導入して、容量は大きいが重量は軽い通販商品のような荷物の運賃を引き上げる取り組みをしています。

日本的な「おもてなし」品質に慣れきった私たち日本人は、当日配達も時間指定配達も即日再配達も、タダで提供される当然のサービスだと思っていますが、米国の例をあげるまでもなく、輸送時間が短縮されれば、運賃が高くなるのは当たり前です。
各駅停車と特急では運賃が異なるのと同じ原理のはずなのに、宅配便業界で一般生活者は、あらゆるサービスをタダであることが普通になっています。
これは、シェア争いに伴う価格競争の恩恵に与っているためです。

このまま日本の宅配業者が、ドライバーや下請け業者の犠牲の上に物流ネットワークを成立させ、顧客に対して正当な対価を要求しないままでいるならば、社会インフラとしての機能が崩壊し、結果的に多くの人や企業が損をすることになるでしょう。
同時に消費者側も、社会インフラとしての物流ネットワークを維持するために、これまでのように便利な宅配システムをタダで使うという発想を変える必要があるのです。

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