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「安楽死」公表が波紋「死ぬ権利」の是非

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29歳末期がん患者の女性がネット上で「安楽死」を公表

「安楽死」公表が波紋「死ぬ権利」の是非

末期の悪性脳腫瘍で余命6か月と診断されたアメリカの29歳の女性が、医師から処方された薬物によって自ら命を絶つと公表して全米マスコミの注目を浴びています。この女性は、結婚しておよそ1年後に悪性の脳腫瘍であることが発覚し、治療のかいなく病状は悪化。3か月後には手の施しようがなく、余命6か月と診断されたといいます。その診断を受けて、女性は、安楽死を合法化しているオレゴン州に移住し、今月末の夫の誕生日を祝った後、来月1日に安楽死するとインターネット上で公表しました。

この公表を受けて、ネット上でも「生きる権利」「死ぬ権利」といったテーマで活発な議論が行われているようです。安楽死を容認する動きを広げたいという提言を含んでのものということではありますが、個人的な感想としては、自ら命を絶つことをネット上で公表することについて強い違和感を覚えます。

自らの死というデリケートな問題ですから、逡巡や周りからの働きかけによって思い直すこともあるかもしれませんが、一旦ネット上で公表して注目を浴びてしまうと、後戻りできなくなってしまうという恐れもあります。

日本では、薬を渡した医師や自殺の意思をサポートした家族が罪に

アメリカでは、州によって刑罰法規も異なることから、このような判断をして実行に移したとしても、オレゴン州内では誰かが処罰されるというようなことは生じません。では、わが国で末期がん患者が同様の行動に出たとすると、どのような問題になるでしょうか。

わが国では、自殺を決心している人に自殺を容易にする援助を行うと自殺幇助罪として処罰されます。法定刑は6か月以上7年以下の懲役又は禁錮で(刑法第202条)、殺人罪よりは軽いもののかなり重い刑罰の対象となります。自殺をした本人は既に亡くなってしまっているので罪には問われませんが、本人に薬を渡した医師、本人の自殺の意思をサポートした家族が罪に問われる可能性は十分にあるのです。

「死ぬ権利」を認めると社会的弱者に不当なプレッシャーがかかる

また、個人の「死ぬ権利」を認めたときに、高齢者や障害者など社会的弱者に不当なプレッシャーがかかることはないのかも気がかりです。アメリカのオレゴン州では、がん患者に対して「抗がん剤治療の公的保険給付は認められないが、自殺幇助の給付は認められる」という通知が届くそうです。これでは、「治療費を自己負担できない人は自殺してください」と言っているようなものですが、そのような通知が公的機関から発せられるところに空恐ろしさを感じるのは私だけではないと思います。

うつ病で「死にたい」と口にした人に、積極的に安楽死のための薬物投与を認めるべきという論者はいないと思いますが、死に至る症状ではないものの、高額医療費がかかってしまい、家族に迷惑を掛けたくないと思っている患者が死にたいと考えたときに、その考えを受け入れて死なせてあげるべきだとする人は少なくないかもしれません。

いずれにしても、わが国においては、医師が延命治療を行わずに結果として患者が死んでしまうことは罪にならないようですが、薬物投与などの手段による「積極的な安楽死」を合法化する動きは今のところありませんので、この女性の真似はしないようにしていただきたいものです。

弁護士と中小企業診断士の視点で経営者と向き合うプロ

舛田雅彦さん(札幌総合法律事務所)

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